
嫁入り道具と荷入れの儀式
結婚にまつわる古くからの習わしの中に、「荷入れ」というものがあります。荷入れとは、結婚を機に女性が新しい家に持ち込む家財道具一式である「嫁入り道具」を、新居へ運び入れる儀式のことです。現代では簡略化されつつあるこの儀式ですが、かつては結婚における重要な行事として位置づけられていました。
昔の嫁入り道具は、新しい生活を始めるにあたって必要なものがすべて揃えられていました。布団や食器、家具など、日常生活に欠かせないもの全てが、女性の生家から贈られるのです。嫁入り道具の品数や質は、女性の家の経済状況や社会的な立場を表すものと考えられており、丁寧に扱われました。そのため、荷入れは単に荷物を運ぶだけでなく、嫁入り道具に込められた思いや、新しい生活への期待、そして両家の結びつきを強める大切な儀式として行われてきました。
荷入れの際には、縁起を担ぐ様々な風習がありました。例えば、運び入れる品物に紅白の紐を結んだり、お赤飯を一緒に運んだりする地域もあります。紅白はめでたい色、お赤飯はハレの日に食べる特別な食べ物として、新たな門出を祝う意味が込められています。また、荷物を運び入れる日取りや時間にも縁起の良い日を選び、無事に新生活が送れるようにと祈りを込めて行われました。
このように、荷入れは新しい家庭の誕生を祝い、幸せを願う儀式として、古くから大切にされてきました。時代と共にその形は変化しつつありますが、荷入れに込められた「新たな門出を祝う」という思いは、今もなお受け継がれていると言えるでしょう。